不動産査定の小ワザ公開

需要が減少する一方で、供給量は増え続けています。 とりわけ供給増に拍車をかけたのが生産緑地法の改正でした。
市街化区域内農地は三十年以上農業継続の意志がある場合のみ生産緑地として申請できることとなり、他は宅地並みに課税が強化されました。 そのため、競うようにして賃貸住宅を建てるようになったのです。
また農地以外の地主が、固定資産税や相続税対策で賃貸住宅を建てるケースも増えました。 こうして供給過多から供給過剰へ、地域によっては「超過剰」とさえ指摘されるように独身寮などの福利厚生を充実させるために、賃貸住宅市場から一括借り上げの形で調達するケースが多く、市場を底上げする大きな要因となっていました。
ところが、長期不況に耐えられなくなった企業は続々とリストラに走り、社宅・寮向けの需要は急減してきました。 最近では不良債権処理のため自前の社宅や保養施設まで放出するほどで、辛うじて存続している社宅でさえ、空室が目立っています。
なりました。 いずれも極めてもっともな理由ですし、思い当たることの多い指摘です。

しかし、原因はこれだけでしょうか。 私はもっと本質的な原因があるように思えてなりません。
これらの指摘は、いずれも時代の変化によって起こった要因です。 時代はこれからもさらに激しく大きく変化するでしょう。
その変化に対応できなかった、いや対応しようとすらしてこなかった業界の体質、あるいは従来の常識そのものに、空前の空室の原因となった大きな問題があると考えています。 バブル以後、二度の分譲マンションブームがありました。
九四年前後には地価下落の底打ち感から大量の供給が発生し、それまで手の出せなかった人たちがマンション購入に走りました。 最近では超低金利や優遇税制が分譲ブームをあおりました。
大量供給による分譲価格の下落も見逃せません。 頭金が用意できれば家賃並みのローン返済でマンションの購入が可能となり、脱賃貸の流れを加速しました。
賃貸住宅業界の問題点を象徴する、少し極端な例をご紹介しましょう。 二○○○年の二月、ある雑誌に掲載された『賃貸住宅建設で急成長するA社の手口』と題する特別レポートです。
実際の記事では「A社」の部分に実名が入っていましたが、ここではけではありません。 農家などの地主に対して、マンションや事務所など賃貸事業の全般にわたって営業しています。
つまり、企画・提案から建物の設計・施工といった建築工事請負事業、入居者やテナントなどを斡旋する仲介事業、さらに家賃保証まで行って急成長し事業会社です。 ところが、オーナーからは「でたらめな営業手法」との批判が広がり始め、元社員からは「騙しの手口」が明らかにされているというのです。
あるオーナーから、事業提案害に「虚偽の事実内容を提示して客を騙している」と批判突き放されました。 されたのは、次の二点です。

一つ目は、家賃の上昇率が甘く設定されていたこと。 十年間は二年ごとに三・○パーセント上昇するとされていた数字は、銀行から「現実離れしている」と指摘されました。
二つ目は、借入利率が甘く設定されていたこと。 十年まで二・五パーセントとされていた利率は、同じく銀行から「三・八〜四パーセントはなければ」と結局、銀行からの融資を断られ、すでにA社と建築工事請負契約を結んでいたこのオーナーは解約を申し出て、前払金四二四万円の返還を求めているそうです。
この提案書には、ほかにも甘い設定がありました。 支出欄に修繕費用の記載がなく、租税公課もこの地域としては低すぎるのです。
「これでは、U(記事中は実名)さんが言まかしの計画書で利益が出るようにした悪質な営業手法と言わざるをえない』と断じるのも無理はない」記事はこう結論づけています。 さらにレポートでは、A社が武器としている家賃保証の実態にも触れ、実際には家賃の値下げで保証額が減ってしまい、「空室対策の負担はオーナーへの雛寄せでしかない」と報じています。
また元同社営業マンの声として「……数字はもっと魅力的にしろと言い、客を騙してもいいよとまで話していた」と紹介しています。 これに対してA社側では、「このケースは社内基準から大きく外れた社員の暴走であり、例外である」とホームページで反論しています。
私は冒頭で「少し極端な例」と言いました。 確かにA社が主張するように、これは「極端な例外」であるのでしょう。
知り合いの施主さんのお話をうかがうと、この事例と大同小異のご不満を聞かされることは決して少なくありません。 実際、営業マンがオーナーから示された数字を達成させるため、無理やり数字合わせをするのは日常茶飯事だというのも否定できない事実と言えます。
しかも、このような手法で営業しているのは、企業規模の大小にかかわらずA社だけとは限らないのです。 ここまでひどいかどうかは別にして、「A社の社内体質」と指摘されたのと同じ体質ができたと言えるでしょう。

エンドユーザー不在だったこの業界これまでの営業手法が犯した二つの過ちある雑誌のレポートを序章で紹介したのは、なにもA社を批判するためではありません。 外からみれば非常識と映るそんな体質が、なぜこの業界ではあまり問題にならなかったかを明らかにしたかったからです。
ずさんで甘い事業計画が通用してきた背景には、これまでの営業手法が犯した二つの過ちがありました。 オーナーから直接建築を請け負うのは必ずしも建築会社とは限りませんから、ここではメーカー側と表現しますが、メーカー側は建物を建てさせてもらわなければ商売になりません。
お客さまは地主さん、オーナーさんです。 売るために、必死の営業活動を展開するのは当然です。
その結果、めでたく契約が成立して建設を開始します。 メーカー側は建物が完成すれば仕事は終わりです。
引き続き仕事が発生しなければ、その賃貸住宅に入居者この時点では、賃貸住宅という商品のエンドューザーがあたかもオーナーであるかのようになっています。 したがって、メーカー側としては、オーナーにさえ納得してもらえれば良いということになります。
勢いオーナーの要望である「収益の最大化」というプレゼンテーションをせざるを得ないのです。 ところが、オーナーの収益最大化を目指したはずの建築と収支の計画に無理があれば、賃貸経営は破綻をきたしてしまいます。
破綻原因のほとんどは空室の発生という形で表面化します。 つまり、入居者に不人気な物件になってしまうのです。
これが一つ目の過ちですがあろうとなかろうと「我関せず」ですんでしまいます。 まして五年後、十年後、さらには四十?五十年後を考えての計画など立てません。

一方、オーナーはできるだけ建設費(イニシャルコスト)を低くおさえたいと考えます。 同時に、投資した資金はなるべく早く回収したいから、家賃は高く設定したい、維持管理に費用はかけたくないと考えます。
これも当然のことです。 しかし、ここで間違いが発生こうした無理と破綻を引き起こすのは、真のエンドューザーである入居者の利益を反映釦第1部賃貸軽営のジレンマしていないからだ、と私は考えています。
では、入居者の利益に配慮するとしたらどうなるでしょう。 間取りも広く設備も充実している。
そんな居住性の高い住宅にしようとすれば、イニシャルコストが高くなります。

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